人間には隠し持った裏の顔があるっていう話
カナダでジェイと出会って4か月くらい経った初めて二人で過ごす冬、こいつめっちゃいい奴やなと感じながら毎日楽しく過ごしていたのですが、ある日彼の人間性を疑う事件が起きました。
二人にとって初めてのクリスマス
カナダではクリスマスは日本でいう正月みたいな感覚です。
日本みたいに恋人と過ごすというよりは、家族で美味しい食事を囲む日です。
ジェイの両親はトロントの近くに住んでおり、私達が住んでいるビクトリアという街とは反対側の南の位置に住んでおります。飛行機で飛んでも5時間以上。
北海道から沖縄より遠い距離です。
会いに行こうと思ったらちょっとした海外旅行気分です。
なので、残念ながら私達はクリスマスをジェイの従弟の家でお祝いすることとなりました。
初めてジェイの家族の一員に会うので、ドキドキわくわくです。
ジェイの従弟家族が住んでいるのはバンクーバーなので、ビクトリアからは船を使用しないといけません。
私達は自宅からバスでフェリー乗り場まで向かうこととしました。
バス停までの道
フェリーの出発時間に合わせ、フェリー乗り場まで向かうバスに乗り込む時のことです。
カナダは、比較的日本と同じようにきっちりした時間にバスが来てくれるので、私達はバスが来る5分前位に着くように逆算して自宅を出ました。
二人でノコノコとバス停まで歩き、あと数十メートルでバス停に着くという時にジェイは何を思ったのかいきなり走り始めました。
そこには一台のバスが向かってきています。
焦るジェイ。戸惑う私。
女走りでバス停に駆け寄るジェイ。状況についていけていない私。
バスの運転手に手を振りバスを停めるジェイ。
そのバスは私達のバスではないのに・・・と立ち尽くす私。
やっと自分達の乗り込むバスでは無いと気づいたジェイ。
バスを停め、私達のことを待っているバスの運転手。
間違いに気づき、全速力で木の陰に隠れるジェイ。戸惑う運転手。
乗らないと判断し「what the heck?(なんやねん。乗らんのかいな)」とでも言いたそうに私を睨む運転手。
自分の所為ではないのに45度のお辞儀で謝る私。
私を犯人に仕立てようとしたジェイを睨む私。
本能で隠れてしまい、私に罪を擦り付けた状況に気づいた罪深いジェイ。
真っ赤に染まった顔で私に駆け寄るジェイ。
言い訳をし始めるジェイ。
ジェイ:
「さっきの63番のバスの番号が、遠くから見たら僕たちが乗るはずの68番に見えちゃった。アハハ。思わず駆け出しちゃったよ。」
私:
「うん知ってた。状況に全然ついていけなかったから、戸惑っちゃったよ。
しかもあなた、バスを停めた犯人を私にしようとしたよね?
自分は木の陰に隠れて、罪を私に擦り付けようとしたよね。そこの点はどう考えてるの?」←詰め寄る私。
ジェイ:
「うん…わかってる。気がついたら木の陰に隠れてしまっていた。ごめんなさい。僕のこと許してくれる?こんな僕だけど、まだ僕の家族に会ってくれる?」←泣きそうなジェイ。
私:
「今日初めて、ジェイの邪悪な一面を見ることが出来たわ。次、こんなことがあったらちょっと考えるけど、とりあえず今回はあなたの従弟の家に行きましょう。
みんな待ってくれてるし(美味しいターキーが私を待ってくれているし)、あなたの家族にも会ってみたいし(クリスマスプレゼント用意してくれてるって言ってたし)、クリスマスだし(ターキー以外にも美味しい食事あるって言ってたし)今日の所は許してあげる」←ジェイの泣きそうな顔を楽しみながらクリスマスに食べられる美味しい食事のことしか考えていない私。
ジェイ:
「よかった~。いやぁ~僕も自分自身に驚いてるよ。本当にごめんね。二度としないから!」
そう言ってホッとしているジェイと、クリスマスに食べられるターキーの事で胸がいっぱいで、どんなことでも許してしまいがちな気の緩い私は、時刻通りに来た68番のバスに無事に乗り込むことができ、船の時間にも間に合い、クリスマスは楽しく従弟たちと過ごすことができました。(ターキーめちゃめちゃ美味しかったです。)
あれから数年。時が満ちジェイの裏側を忘れかけていた時。
そんな過去があったことも忘れかけていたある日、ジェイの隠れざる邪悪な裏側がまた目を覚ましたのです。
いつもジェイは自分の足の方が長いことを自慢し、私の2.3歩前を歩くことが多いのですが、二人で駅に向かっているときに事件は起きたのです。
一台の乗用車が急カーブで私達の前に現れました。
びっくりしてバスケでピボットをかますように右往左往に慌てふためき、私を残して全速力で端に避けようとするジェイ。
自分の身だけを守り抜くために、ダッシュでその場から逃げ去るジェイ。
運転手もドン引きしています。
そして、その時私は数年前のことを思い出したのです。
人間はパニックになると本性が現れることを。
ジェイはパニックになると私を忘れ、自分の身を守るために慌てふためく男だということを。
余裕を持って端に避け、冷たい目でジェイを睨む私。
ジェイ:
「いや~無事でよかった。すごい勢いで曲がってきたね。」
えむ:
「うん、確かにすごい勢いだったけど、避けるには充分な距離と時間があったよね。私の目の前で繰り広げられた誰かさんの醜態の方が見ててコメディーだったんだけど」
ジェイ:
「あんなに早かったらそりゃ焦るよ。(※他にも色々言い訳を言っていたが忘れました。)」
えむ:
「昔、カナダでもジェイは私のことを忘れて自分だけ隠れたよね。その時のことを思い出したわ。ジェイはそういう人だと肝に銘じてこれからは付き合っていくことにするね。」
慌てふためくジェイ。焦っているジェイを見るのが何よりも大好物な私。
大げさに書きましたが、どっちの瞬間もジェイのおっちょこちょいさと鈍くささが秀悦で、嫌いになるというよりは呆れつつも面白い奴だなと感じた次第でございます。
人間はパニックになると本当の姿が現れます。
ジェイを見習い、いつも冷静に生きようと固く誓った一日でした。
バス停事件とひき逃げ未遂事件については、今もジェイへのネチネチ攻撃の時に使用する武器となっております。